【アーティストインタビュー】写真を不在の主体と捉えるアーティスト、小川美陽さんの想いとは

【アーティストインタビュー】写真を不在の主体と捉えるアーティスト、小川美陽さんの想いとは

「Story Fishing」(2022) 

[KG+2022] 2022.4.5~24

GALLERY NEUTRAL, Kyoto

時間的要素や痕跡としてネガフィルムを用いて、あらゆる不在からリアリティを取り戻すことを試みている写真家小川美陽さん。今回は、小川さんが写真に触れたきっかけから、現在の想いまでインタビューさせていただきました。

■作家プロフィール

小川美陽

1996年 大阪生まれ 

 時間的要素や痕跡として写真を用いて、あらゆる不在からリアリティを取り戻すことを試みている。
平面のみならずインスタレーション、動画など、様々な手法で展開中。

 個展

2022

「Not the moon, not the wind」(国際装飾株式会社 エントランス, 東京)
「Story Fishing」(KG+ Gallery NEUTRAL, 京都) 

 主なグループ展

2022

「The Store」(STANDPARK, NU茶屋町4F, 大阪)
「Where I am, Anyways」(旧金子家住宅, 秋田)
「Where abouts 2022 TOKYO by アトリエ三月」(ターナーギャラリー, 東京) 

2021

「SHOW CASE  vol.25」(アトリエ三月、大阪)

2020

「空白の痕跡」(亀岡商工会館、京都)

2019     

「船/橋渡す 2019」(奈良県立大学、奈良)

HP:http://miyoogawa.com
Instagram :https://www.instagram.com/ogaaa_mi/?hl=ja

写真家として活動されたきっかけ

—写真を始めるきっかけになったのはいつ頃ですか。

小川さん:大学3回生の時です。自分のしたいことを追求した時に、自分のアイディアで何かを作っていきたいという気持ちがありました。当時映画鑑賞にハマっていたのですが、映画から派生して→静止画→写真という風に興味が移っていきました。しかし、芸術系の大学に通っているわけではなかった為、一旦休学してカナダのモントリオールに行って7ヶ月半ほど滞在しました。この経験がきっかけとしては大きいです。

—海外に行くことに不安はありませんでしたか?

小川さん:なかったです。むしろ、ワクワクした気持ちの方が大きかったです。

モントリオールには、アナログフォトスタジオが沢山あります。ラボでは、英語が堪能でなくても働けるのではないかと考え、履歴書を持ち回って雇ってくれるところを探しました。最終的に一つのラボでインターンさせていただけることになり、そこでは、暗室作業やフィルムカメラについて教えてもらいました。その期間中に、直感でフィルムというメディアに惹かれました。

—モントリオールでのご経験から写真を中心に制作されるきっかけになったのですね。今までのご経験から、小川さんが写真にこだわる理由はありますか?

小川さん:元々備忘録+後で見返して変化を知るために、日記をつけたりメモを残したりと記録癖がありました。一つはその記録癖と写真の相性の良さです。もう一つは写真を撮り始めた当初から、その記録性の不完全な部分について考えさせられるからです。

作品制作に対する想い

実際に炙られたネガ

—ネガを炙るという表現は特徴的であると感じましたが、この表現を始められたきっかけは何でしょうか。

小川さん:モントリオールで撮り溜めた写真を見返しても、当時の感情と比にならないほど表面的だったからです。そこで、残したかったのは体験であって、風景ではなかったのだと気づきました。その点、ネガ自体は当時との物質的繋がりのように感じられ、保管しておくだけなのがもどかしくなりどうにかしたいと思いました。そこで、現像というプロセスの次の段階を作ろうと考えたんです。それは過去の物質に対して手を加えることで、置き去りにせず出来事としてアップデートする感覚でした。

—現像し終えたらネガは保管したままになってしまうこととても分かります。ネガをアップデートしようと思ったときになぜ炙るという表現方法だったのでしょうか。

小川さん:引っ掻いたり、火の中に入れてみたりと色々試した結果、意図的でありつつ完全に制御できないということがポイントであるように思い、’’炙る’’という方法に至りました。火を使った理由は、熱による不可逆性を利用して出来事のアップデートという意味合いに確実性を持たせたかったからです。ネガに起きる「もう元に戻らない」という変化が、物理的にも心理的にも「進んでいる/今を生きている」と判断できる基準になると考えました。

—定期的に様々な場所で展覧会を開催されていると思いますが、今までの展示で特に印象的だった展示を教えてください。

小川さん:昨年行った秋田での展示です。秋田の公立美術大学の院に通う後輩がアートマネジメントを学んでいて、関心が似ている作家がいるから会わせたいって言ってくれて始まりました。色々話していくうちにお互い祖父の故郷に関心を寄せている最中だったことがわかり、それぞれ実際に訪れてみて進捗を手紙で報告し合う形で進めました。見えない・もう会えない人物(祖父)に対して想像する行為と、相手に届く時間を考えながら手紙を書く行為、秋田の遺跡跡で見た発掘後の土器の破片の欠損部分は石膏で補いながら繋ぎ合わせて形にしていく行為が似ているねって話をしたり、とにかくこまめに感じたことを共有して3人で展覧会を作り上げていきました。誰かとリサーチ段階から共同的に制作するのは初めてで、とても学びが多かったです。個人的な作品の内容としても、遺品を扱ったり動画作品であったりと、新しい展開だったので大事な展覧会になりました。

—制作する上での苦悩はあったりしますか?

小川さん:インプットした後や、頭が動けば動くほど手が動かなくなってしまうという悩みはありますが、リフレッシュしてとりあえずやってみる精神を取り戻すようにしています。

今後の可能性について

—小川さんの考える写真の可能性とは何でしょうか。

小川さん:多義的でミーハーなところだと思います。だからこそ時代に応じて様々な分野を横断できるし、複合的なアプローチができると考えます。

—今後どのような活動をしていきたいか展望などはあったりしますでしょうか。

小川さん:ニューヨークの古着屋で服と並んで大量のファウンドフォト(撮影者不明の写真)が売られていたことを最近ふと思い出して。元々フリマサイトやused shopが好きですし、自分でイメージを新たに作るというより、すでに残されているものを扱う方に意識が向いています。これは秋田での展示で祖父の靴を履いて歩く動画作品を制作したことも影響していると思います。

「X-point」(2022)

movie / sea water / grandfather's shoes

2022.11.3~15 Exhibition「Where I am, Anyways」

with Momoka Kurihara / Rina Sakurai

Former Kaneko Family Residence、Akita

最後に

今回は、写真を始めたきっかけから現在の活動の想い、そして今後の展望などについてお伺いしました。取材を通して、小川さんの好奇心を大切に色々な領域を横断しながら新たなことに挑戦している姿勢や作品に対する想いも伝わってきました。小川さんが写真を通して表現される今後の作品、ご活躍に注目です。


詳しい活動については、Instagram(@ogaaa_mi)とHP(http://miyoogawa.com)をご確認ください。
定期的に展示も行われているようなので、是非小川さんの新たな作品を表現する素敵な作品を観に行ってはいかがでしょうか。