【ブランドインタビュー】大磯に流れるやわらかな時間 ー 宿・うつわ・絵が交わる場所で生まれた物語 ー
【ブランドインタビュー】大磯に流れるやわらかな時間
ー 宿・うつわ・絵が交わる場所で生まれた物語 ー
神奈川県の海辺の町・大磯。
古くから文化人に愛され、いまも小さなアトリエや個人店が点在する、どこか時間がゆっくり流れる土地です。
今回POPAP編集部・ことのがお話を伺ったのは、陶芸家の朝子さん、 宿〈たゆたう〉を営む知佳さん、イラストレーターの百恵さん(totoganashi)さん。
湘南・大磯で出会った3人は、それぞれ異なる表現を持ちながらも、共鳴・共創を生みだしていく。そんな宿、うつわ、絵が自然に混ざり合う、あたたかなつながりの背景に触れました。
左から知佳さん、朝子さん、百恵さん
■ 大磯で重なりはじめた三人の時間
大磯の海にほど近いアパートをリノベーションして作られた「the studio oiso」。
そこには、陶芸家・朝子さんのアトリエと、知佳さんの宿〈たゆたう〉が並んでいます。
さらに今年は毎年秋に開催され多くの人で賑わう大磯町のイベント「大磯うつわの日」に合わせ、イラストレーターの百恵さん(totoganashi)の作品が the studio oiso で展示されました。また、朝子さんのうつわに百恵さんの絵付けが加わるなど、宿・うつわ・イラストがやわらかく交差する時間が生まれていました。
■ 「ここに馴染める人が自然と集まる」
編・ことの:西湘・大磯の魅力って、どんなところにあるのでしょうか?
知佳さん:似たものを持った人たちが、自然と集まってくる感じがするんですよね。
百恵さん:わかります。ここに馴染める人たちが勝手に集まってくるというか。
朝子さん:それにこの辺りは海も山もあって環境がいい。自然からのエネルギーってやっぱりすごくて、何かをやるには良い土地なんだよね。
編・ことの:“人が自然とつながること”と、“自然そのものの豊かさ”。この二つが、西湘・大磯の魅力として重なり合っているんですね。
■ 「言葉にした瞬間から、動き出す」
the studio oisoの外観
the studio oiso は、もともと朝子さんが陶芸のためのアトリエとして購入した8部屋のアパート。
朝子さん:8部屋あるうちの2部屋くらいを陶芸のために使おうと思って買ったんです。余った部屋をどう使おうかと考えていたら、知佳ちゃんがあらわれて。
知佳さん:私はいつか“地域の魅力をたっぷり味わえる宿泊型レストラン”を夫とやりたいと思っていて。まずは小さく民泊をやってみようと考えていたタイミングで、たまたま朝子さんから「部屋があるから宿やらない?」って声をかけてもらったんです。
編・ことの:みなさん、“やりたい”や“どうしようかな”の段階で言葉にしているんですね。
百恵さん:朝子さんがつぶやいたことって、気づいたら実現してるんです。
百恵さん:しかも、他の人の願いも叶えてるんですよ。朝子さんに“やっちゃいなよ!”って言われるとできる気がして。人のポテンシャルが開花していくというか。
朝子さん:人に対しても、自分に対しても“できる”と思っているからね。
大磯には、“大きなことをしよう”というよりも、“やりたいと思った小さなことを少しずつ形にしていく”ような空気があります。
この土地の空気の中で、そんな軽やかな創作がたくさん生まれているのを感じました。
■ うつわの日が教えてくれた「あたたかな繋がり」
うつわの日のthe studio oisoの風景
大磯では、町全体を歩きながら作家と作品に出会える「大磯うつわの日」が毎年開催されています。町内のカフェやギャラリーを会場に地元の陶芸家が展示を行う恒例行事で、町歩きしながら作家やうつわとの出会いを楽しむことができます。the studio oiso もその会場のひとつとなり、2025年は百恵さんが〈たゆたう〉のお隣の部屋で展示をしていました。
うつわの日にthe studio oisoの一部屋で開かれた百恵さんの展示
百恵さん:今年のうつわの日は本当にやりやすくて。the studio oiso に出店している朝子さんや、屋台の方たちも含めて、みんなでつくる雰囲気がすごくあたたかかったです。
朝子さん:ここにいる人は、みんなよく笑ってるからね。
編・ことの:そうですよね。しかも大磯の方々は、お互いの良さを知っていて“あそこ素敵だよ”って自然と紹介してくれますよね。
知佳さん:小さな町で、小さく自己実現している人が多いから、応援し合うんですよ。“どこに住んでいるか”より、“何をしているか”でわかり合う感じがあります。
■ それぞれの「スキ」の表現と、作品づくりのこだわり
編・ことの:みなさんには共通して「小さな自己実現を叶えているところ」と「人とつながる姿勢がある」一方で、それぞれ異なる部分もありますよね。
知佳さん:私は“その人の素敵だと思う部分”を見つけて伝えることが得意なんだと思います。私は宿も一つのメディアだと思っていて、泊まることでまちを知るきっかけを産むことができると考えています。その一つの方法として〈たゆたう〉では朝子さんの作品を置いて、実際に触れてもらえるようにしています。
<たゆたう>の一部屋
キッチンには朝子さんの作品が並ぶ
朝子さん:私は“嫌いなものは作れない”んだよね。気持ちが乗らないものは作らない。それから制作中は“音”を大事にしていて、特に528Hzの音楽を流していると、何かと繋がる感覚があるね。
百恵さん:私は「こういうモチーフを入れてほしい」と依頼を受けるときは“どう描こう”って毎回悩むんですけど、自分で無理に考えても出てこなくて、ひたすらイメージが降ってくるのを待っています。最近は寝起きのタイミングでアイデアが浮かんでくることが多くて。頭の中で紙に書いているように色付けもできるんです。
“好きだから続けている”というシンプルな原点が、三人の話の中に共通して流れていました。そのピュアな気持ちが交差することで、the studio oiso には小さな創造が生まれ続けているように思えます。
◾️POPAP編集部より
3人の会話では「やってみる」「言葉にする」「自然と集まる」というワードが何度も出てきました。 「できたらいいな」のつぶやきが、本当に誰かの手を介して形になっていく。それが大磯という土地の空気であり、3人が出会い、共創に至った理由なのだと強く感じました。
朝子さんの器にこもったぬくもり、宿〈たゆたう〉の穏やかさ、百恵さんの線が描く温度。
それらは別々に存在しているのではなく、同じ流れの中でゆるやかに混ざり合い、お互いを引き立てているように思えます。
人が自然に集まり、小さな「好き」や「やりたい」が、静かに形になっていく。そんな大磯の魅力が、この記事を通して少しでもお届けできていれば嬉しいです。
◾️プロフィール
朝子さん(岡村朝子)
陶芸家、作家。1978年、神奈川県平塚市生まれ。 2001年に武蔵野美術大学 工芸工業デザイン学科を卒業し、2002年から作陶を開始。
「何気ない日々の中に、小さな幸せを届けたい」という想いで、穏やかで温かみのある器を制作。
HP:https://asako-okamura.stores.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/asa_asa_o/
知佳さん(西野知佳)
1989年、福岡県生まれ。新卒で星野リゾートに入社後、地域魅力の発掘・企画・発信に楽しさを覚える。結婚を機に働き方を見直し、独立後の2021年に大磯に移住。「自分と社会のごきげんを最大化する」ことを軸に、ブランド戦略家、広報パートナーとして、企業や個人の想いの発信を支援。2023年より、大磯暮らしを愉しむ宿「たゆたう」を共同運営。
宿「たゆたう」HP:https://tayutau.base.ec/
宿「たゆたう」Instagram:https://www.instagram.com/tayutau_oiso/
百恵さん(近藤百恵・totoganashi)
作家/イラストレーター。アーティスト名は totoganashi。
植物や鳥をモチーフにしたオリジナルの水彩イラストを描き、これをもとにテキスタイルや紙製品などのアイテムを制作・販売。名前の由来は、奄美大島の島言葉「とうとぅがなし(ありがとう/あなたを信じている/大丈夫)」から。