【ブランドインタビュー】旅するパン職人こやまベーカリー 小山萌|パンづくりを通じて、心地よく居られる広義の「居場所」をつくる

【ブランドインタビュー】旅するパン職人こやまベーカリー 小山萌|パンづくりを通じて、心地よく居られる広義の「居場所」をつくる

学校にも家にもなんとなく居場所がなく、カフェが居心地のよい空間だった高校時代。そんな経験から、「自分にとって居場所になるようなカフェがつくりたい」と思い、武器としてパンづくりの修行をはじめた小山さん。
ですが、ここ数年で「居場所」の捉え方に変化があったとのこと。今回POPAP編集部はこれまでの活動を振り返りながら、新たな気づきや今後の活動についてなど、様々な想いを伺いました。

プロフィール

1998年岡山県岡山市生まれ。
高校時代に不登校になり、カフェ巡りに没頭した経験から「居場所になるようなカフェをつくりたい」と思うように。大学休学中に旅先で出会ったパン屋でパンに魅了され、その道を突き詰めることにする。現在は東京でパン修行をしつつ、不定期の間借りカフェ「こやまベーカリー」を開催。また、今の暮らしを楽しむために「岡山と暮らす」という活動をスタート。東京での日常に岡山を、というコンセプトで、暮らしをより豊かにするため活動中。

「居場所」を求めてパン職人の道へ。パン職人としての旅路。

ー パン職人になろうと思ったきっかけを教えてください

高校時代、不登校だったんです。
なんとなく学校にも家にも居場所がないと感じていて、居場所を求めてカフェ巡りをしていました。その頃から、「いつか自分で居心地の良いカフェを作れたら」と漠然と考えるようになったんです。将来カフェを開くにあたって、武器となる看板商品が必要だと考えました。そこで、卸売やネット販売、カフェ営業もできるパンに目をつけました。

ー 最初はかなり戦略的な出会いだったんですね。パンづくりはどうやって学んだのですか?

趣味程度でしかパンづくりをしたことがなかったので、大学休学中にパンの修行をすることにしました。「どうせなら行ったことのないところに行ってみたいな」と思い、たしか「東北 パン屋 短期バイト 住み込み」とかで検索して、偶然ヒットしたのが新潟県阿賀町にあるベーカリー&カフェでした。
初めての土地ではありましたが、豊かな自然や、アットホームな地域のみなさんに心を掴まれて、町そのものが大好きな場所になりました。働かせてもらうことになったお店に対しても「私がつくりたい場そのものだ」と思えたことや、パン職人さんの教え方もとても上手だったこともあり、「この人に教わりたい」と思いました。ありがたいことに正社員で働く選択肢を提案していただいたこともあって、何とか親を説得して大学を中退して、本格的に正社員として働くことに決めました。

ー すごい行動力と決断力ですね。そこで修行した後、東京に拠点を移されたんですよね?

はい。開店に間に合うようなパンづくりの段取りや、時間管理、新商品の開発や接客、食品表示についてなど、本当に様々なことを勉強させていただきました。事前に言われていたので分かってはいたことではあったのですが、入って半年でパンづくりの師匠が東京に帰ってしまって。パンづくりは本当にたくさんの製法があって、店舗ごとでも全然違うので、別のところでも学んでみたいと思い、一番選択肢が豊富であろう東京に拠点を移しました。

ー 東京でもすでに3店舗経験をされたとか。何だか旅をするように、パン職人としてのキャリアを歩まれている軽やかさが素敵です。

そうですね。各店舗で色々な製法を学べるのはやはり面白いです。パン屋巡りも大好きで、休みの日もよくパンを食べています。東京に来て、途中からは正社員としてではなく、アルバイトに働き方を変えたんですが、そのときから個人で「こやまベーカリー」として、ポップアップ出店もはじめました。旅というと、次のパン屋で働くまで2ヶ月ほどあるので、今は国内外問わず行きたかったところを旅したり、ご縁のある地域でポップアップイベントをしたりしています。3月はヨーロッパに行って、パン屋巡りの旅をする予定です。

ー 本当にパンが大好きなんですね。

パンはコミュニケーションツールのひとつではあるのですが、パン作りもすごく好きなので、結果として好きなことを仕事に選べたことはとてもラッキーだなと自分でも思っています。

素材を活かしたテーマのあるパンづくりがしたい。ポップアップ出店での出会いと学び。

ー ポップアップ出店も2023年からはじめてあっという間に10回以上になるとか。パン屋でのパンづくりとポップアップでのパンづくりとでは、何か違いはあるのでしょうか。

もちろんどちらも「美味しくできてほしい」とは思っていますが、雇われてパンを作るとなると、どうしても効率を考えないといけない側面が多いですね。ポップアップのほうが、もう少しパンを愛でられている感じがします。

ーポップアップをはじめたきっかけは何だったんですか?

アルバイトになったタイミングで、「せっかくだからもっと自由な働き方をしたい」と思って、はじめたのがきっかけです。正社員時代から遊びには行っていた東池袋にある「ひがいけポンド」がはじめてのポップアップ出店でした。

ー ポップアップ出店をやってみて、どうでしたか?

最初やったときは、正直すごく鬱々としていました(笑)「何だろうこの不安感は」と思っていたんですけど、今振り返ると自由度が大きすぎたんだと思います。でも、ポップアップを通じて、人とのつながりもすごく増えました。ご縁あって、チョコレート屋さんの商品開発に携わらせてもらうことにも繋がったんですが、そのあたりから「素材を活かしたパンづくりがしたい」ということに気付きました。直近岡山でやったポップアップでは、ベトナムのコーヒー豆を使用しているカフェだったので、そのコーヒーに合うパンとしてバインミーを岡山の食材を使って作ることにしたり。テーマがあるほうがわくわくしますね。

あとは、パンのポップアップは、それなりに機材が充実してないと技術的にも作れる量の限度的にも難しいなあというのも勉強になりました。丁度ポップアップだけでやり続けることに限界を感じていた矢先に、実はいい物件を見つけてしまって。とりあえずダメもとでも応募してみようと思っています。理想は自分のお店を持ちつつ、ポップアップにも出店して、お店を知ってもらう機会をつくっていくという働き方が、今の一番自分には合っていそうです。

「居場所」のアップデート。広義の「居場所」をつくる。

ー 行動し続けているからこそ、どんどんと新しいチャンスを掴んでいるのがとても素敵です。元々「居心地のいい居場所としてカフェを作りたい」というところから、パン職人としての歩みも始まったかと思いますが、活動を通じて何か気持ちに変化はありましたか?

居場所に対する考え方は、変わってきたとは思います。前は居場所に対して確固たる「場所」を想定していましたが、今はもっと「流動的な場」も居場所になり得るのかもしれないと思うようになりました。そういう意味では、ポップアップもわたしにとってひとつの「居場所」なのかもしれません。

ー 「お店を持つ」というのもすごく象徴的な居場所づくりではあるものの、「居場所」の概念そのものが広がってきたんですね。

そうですね。「場所」に執着しすぎないようになったかもしれません。出身の岡山県が大好きで、ずっと「早く岡山に戻らないと」という焦りがあったんですけど、すぐには岡山に戻れなくとも、東京で岡山のエッセンスを取り入れることはできるんじゃないかと思って、「#おかやまと暮らす」という活動を新しく始めることにしました。

ー 素敵ですね。「#岡山と暮らす」についてもう少し詳しく教えてください。

3月に予定しているイベントでは、東京にいながら岡山にゆかりのあるものを食べて、岡山を感じられる風景を見る時間を過ごせればと思っています。
岡山に縁があった方は一緒に懐かしんで、行ったことない方は、わたしのふるさとがどんなところか、味わっていただけたら嬉しいです。そして、来てくれた方々それぞれのふるさとの話も、ぜひ聞かせてほしいです。

ー 今の東京での暮らしに、今できるカタチで岡山への想いをチューニングすることで、心地よい居場所感をつくっているのかもしれませんね。

まさにそういう活動なのだと思います。
ただの自己満足でしかないですが、「#おかやまと暮らす」も、わたしにとっては地に足つけて東京で暮らすためのひとつの居場所づくりだったのだと今話していて腑に落ちました。東京にいながらも岡山のエッセンスを暮らしに取り入れることで、「これもありだよね」と丸ごと受け入れられるような、そんな居場所感に近いものを得ているのかもしれません。

ー 「#おかやまと暮らす」で得られる居場所感は、他の地域と置き換えて共感する人も多いのではと思いました。「#〇〇と暮らす」というテーマで色んなコラボも生まれそうな予感がします。今後の発展や活躍を楽しみにしています!今回はありがとうございました。