「刺繍―針がすくいだす世界」展、東京都美術館で開催|伝統と現代を繋ぐ刺繍アート
布と糸、針だけで描かれる無数の線と色。東京都美術館で始まる「上野アーティストプロジェクト2025 刺繍―針がすくいだす世界」では、刺繍という古くからの手技が今、現代アートとして再定義されています。日本の刺繍史と、今を生きる作家たちの新しい表現を一度に味わえる貴重な機会です。
■開催概要
展覧会名:上野アーティストプロジェクト2025「刺繍―針がすくいだす世界」
Ueno Artist Project 2025: Embroidery―Expression of Life from the Rhythm of a Needle
開催時期:2025年11月18日(火)~2026年1月8日(木)
開催場所:東京都美術館 ギャラリーA・C
休室日 :2025年12月1日(月)、15日(月)、22日(月)2026年1月3日(土)、1月5日(月)
開室時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
金曜日は 9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
観覧料 :一般800円 65歳以上500円 学生・18歳以下無料
※同時期開催の特別展「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」のチケット提示にて入場無料
岡田美佳《ハーブの庭》1996年 作家蔵
尾上雅野《秋》1974年 公益財団法人日本手芸普及協会蔵
伏木庸平《こもんべべ》(部分)2023-24年 作家蔵
平野利太郎《サボテン》(部分)1955年 町田市立博物館蔵
望月真理《象は森の王様》2020年頃 個人蔵
東京都美術館では、11月から来年1月にかけて、上野アーティストプロジェクト2025「刺繍―針がすくいだす世界」を開催します。
シリーズ第9回目となる本展では、布地などに針で糸を刺し、縫い重ねる手法によってかたちづくられた多彩な造形と表現に注目します。手に持った針を動かし、布の表裏の行き来を繰り返す「刺繍(ししゅう)」と呼ばれるような仕事は、つくり手に自分だけの世界に潜りこむことを促し、安らぎや自己解放、時に救済をももたらすものだと言われます。一方で、布地の補修や装飾、信仰などのため、様々な時代、様々な場所で土地の風土に根ざしながら発生してきたこの手わざは、時間・空間を隔てた他者の生活への想像力を働かせるきっかけともなり得るものです。
近世以来の刺繍職人の家に生まれ、伝統的技法に基づきながら革新的な表現を追い求めた平野利太郎(ひらの としたろう・1904〜1994)。西洋刺繍の知識を土台に、羊毛を用いた躍動感ある絵画的な刺繍作品を発表し、日本手芸普及協会の会長も務めた尾上雅野(おのえ まさの・1921〜2002)。絵や映像を介して目にし、記憶した風景や事物を、自由なステッチで画面上につくり上げていく岡田美佳(1969〜)。つくることをめざすのではなく、自分の奥底に流れる時間や感覚を確かめるかのように、日々、糸を刺し続ける伏木庸平(ふせぎ ようへい・1985〜)。ベンガル地方の女性たちの間で古布再生や祈りの思いから生まれ継承されてきたカンタと呼ばれる針仕事に共鳴した望月真理(1926〜2023)。
本展では、以上の大正末から現在にいたる国内の5名の刺し手たちの活動をみつめます。それぞれが手を動かし、布の上にすくい上げた「かたち」と向き合うことで、針と糸というシンプルな道具とともに続けられてきたこのいとなみの意味と可能性について、考える機会となれば幸いです。
※「上野アーティストプロジェクト」は、「公募展のふるさと」とも称される東京都美術館の歴史の継承と未来への発展を図るため、公募展に関わる作家を積極的に紹介する展覧会シリーズです。2017年より毎年異なるテーマを設けて開催しています。
◾️POPAP編集部より
「布と針だけで、世界がひろがる」――そんなシンプルな手技が生み出す奥深い美の可能性を感じる展覧会です。今回の展示では、伝統的な刺繍から現代の前衛的な表現まで、刺し手たちの多様な感性が光る作品が並びます。手芸やアート、ものづくりの余白に惹かれる人にとって、新しい感覚との出会いがきっとあるはず。